たまには違う道から帰ろうと思って、ふらりと好奇心で裏路地に入ってみた。開店前のお店の店員さんがせかせかと働くのを横目で流しながら、赤みがかった空を遠くに見た。

平和だなあと思った次の瞬間、ガシャン、とフェンスに何かがぶつかる音がして前言撤回、と心の中で呟く。
足を止めて怒鳴り声が聞こえる方に耳を澄まして、声の聞こえる方に向かってゆっくりと足を進める。
…別に痛い目に会いたい訳じゃないし、正義の味方になりたい訳でも無かったけど、怖いもの見たさと言うやつだ。何せ、今の私は好奇心が強い。
徐々に声が大きくなってきて、自分の心拍数も少し上がる。―――ここの角だ。そう思って、足を止め、ゆっくりと呼吸を整えて少しだけ覗こうと意気込むと、声は止んでいた。

あれ?と思い、恐る恐る角から覗いてみると、情けない声を上げながら走り去って行く集団と、地面に座り込んで苦しそうに息をする男がいた。

色素の薄い栗色のツンツンした髪の毛に、無駄に整った顔。

そして、あ。と息をのんだ。じっと座る男を見つめて、確信をすると私はゆっくりとその男に向かって歩き出す。少し心臓が煩い。けど、怖い訳じゃない。




「――――アキラ」



声をかけると男…もとい、クラスメイトのアキラはゆっくりと視線をこちらに向けた。



「……三宅、蒼…?」



私の名前を呟いて苦しそうに胸を抑えている。心配して近寄ろうとすれば、睨みつけられた。その眼はまるで、『どっか行け』と言ってる様。




「喧嘩してたの?…にしては怪我してないけど、大丈夫?」
「………うっせ」




言葉を発したと思えば、まあ口が悪い。折角人が心配してやってんのに。
と思っていると、アキラはゆらりと立ち上がった。そしてフラフラしながらカバンをひっつかむと、壁に手を付きながら歩きだす。
何だか、観てるだけで痛々しいってゆうか、すぐに転んじゃいそうで手を貸したくなる。




「あのさ、別に誰にも言わないし。肩くらいかすよ」



アキラのカバンをひったくって、空いた手を掴んで私の肩に回した。
アキラは一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに私の手を振り払って小さく歯ぎしりした。あ、今ちょっと腹立った。