嫌いな奴の前で涙を見せたくない私は振りかえれない。




「……秋吉?」




 そんな気持ちさえ知らず、私の名字を呼ぶ。





 あ……私、手繋いでる。




 そう思い、そっと手に加えていた力を抜き、手が離れる。





「…こっち向けって」




 肩に置かれた奴の手に向こうを向きそうになる。





「…泣いてんの?」



 一瞬、私の顔が見えてしまったみたい。





 私は向こうを向かずに答える。




「泣…いてないッ」

「泣いてんじゃん。明らかに鼻声なんだけど」




 そう言った奴はため息をついた。