帰り道。
私達はなんとなく気まずい雰囲気の中、並んで歩いていた。
自転車を押すきーっきーっ、という錆びついた音が、私達の中に響く唯一の音だった。
夕日も沈みかけている。今日が終わってしまう。その後に待つのは―――考えたくもない。
「…大丈夫か?」
「えっ…?」
「顔色…よくないから、」
「…大丈夫、」
無意識のうちに遙に心配をかけてしまっていたことを心の中で謝罪する。それと同時に再び訪れる沈黙。
取り敢えず、この状況をなんとかしようと考えなしに口を開いてみる。
「あのさぁ、」
「ん?」
「今日、は、楽しかったね…」
「ああ…」
長い沈黙と少しの会話とを繰り返しているうちにいつの間にか私の家まで来てしまっていた。
この扉の向こうになにが待っているかなんてわかりきったこと。
だからこそ、私は現実から目を背けたくなる。
「また明日な…」
そう言って、私の頭を優しく撫でる遙。
優しくしないで。
優しくされたら私は―――抑えきれなくなってしまう。
この気持ち、全部全部。
「行、かないで…!」
「えっ…?」
「家に、帰りたくないっ…」
遙の服の裾を掴んで、行かないでと何度も訴える。
帰りたくない。
家に帰ったって、なにもない―――。
居場所も、愛も、なにもない―――。
「っ……!」
遙の腕の温かさが、私の涙を誘った。