「話して。
大丈夫、彩を怒るつもりはないから」


啓吾の表情が優しくて、今まで張り詰めていた気持ちが一気に緩んでいく。


「―――どうせまた英知が何かしたんだろ?」


ポンと頭に啓吾の手が乗ったとき、とうとう目から涙が溢れた。


「泣かなくていいから」


啓吾の大きい手の平が、彩の髪をくしゃくしゃと撫でる。


啓吾のキスを拒んでおきながら、英知のときは受け入れてしまったなんて、責められて当然なのに。


何があっても怒るつもりはない。
その言葉に心底ホッとして、彩は昨日の出来事を話した。
―――英知のキスが気持ち良かったという事実を除いて。


「どうして怒らないの…?」


一通り説明したあと、表情を変えずに聞いていた啓吾に尋ねてみる。


「彩の気持ちが英知に向いてないから」


啓吾の自信に彩は面食らう。


「相手があいつなら負ける気はしない」