掴む力が強くて、彩はその手が解けない。


「そんなに嫌なら兄貴に言い付ければ…?
―――すげぇ怒るだろうな。
自分のときは嫌がったのに、俺とあっさりキスしたって知ったら」


「―――嫌!
啓吾に言わないで」


英知は彩が叫ぶと同時に、啓吾、と呼んだことにショックを受ける。


彩はいつの間に啓吾を呼び捨てにするようになったのだろう。
知らないうちに二人の距離が縮まっているのだと再認識させられる。


「―――そんなに嫌かよ」


英知はつぶやいた。


彩は当り前だと即答しようとして止まる。
英知とのキスではなくて、その事実が啓吾に知られてしまうことが嫌だった自分に気付いたから。


彩は戸惑う。
どうして英知とのキスは嫌じゃなかったんだろう。


そして慌てて首を振ると、急すぎて嫌がる暇がなかったんだと自分に言い聞かせる。
だって、そうでなければ説明がつかないから。


「分かったよ…」


英知は彩がそんなことを考えているなんて思いもせず、唇を噛んで布団に潜り込むと、


「…悪かったな」


力無くそうつぶやいた。