初恋の実らせ方

「あー!懐かしい」


彩は話題を変えたくて、まるで今見つけたかのように写真に手を伸ばした。


「そういえば、英知って昔はサッカー少年だったんだよね?
どうして野球部に入ったの?」


ちょっとわざとらしかったかな。
恐る恐る英知を見ると、仏頂面の英知は小さい声でつぶやく。


「―――始めさせた本人が、忘れるなよ」


「え…?」


よく聞こえなくて聞き返すと、英知は何でもない、と言い捨て、机の上のペットボトルに手を伸ばした。
いや、伸ばそうとしたところで、英知は体を支えていたもう一方の手を滑らせた。


「危な…」


彩はそれを支えようとして、英知を抱きしめる形になってしまった。


ペットボトルが鈍い音を立てて横を転がる。


英知って…。
想像以上にがっしりした体に、彩は初めて英知を男なんだと意識した。


くっついたところから彼の体温が伝わって来て、焦る。
上手く息ができない。
頭が真っ白になる。


「―――兄貴と、こういうことしてんの?」


「え?」


「―――良かったね。
ようやく兄貴の彼女になれて」


なぜか英知にそう言われると、胸がちくんと痛む。


「そんなの今は関係ないでしょ」


彩は英知を押し退けて、ペットボトルを拾った。