彩は慌てて、閉まりかけた扉を押さえる。


「―――でも、栄養付けないと!
食べたい物ない?
何か買って…」


「いいって!」


英知の本当に迷惑そうな声に、彩は驚く。


ニコニコとよく笑う英知しか見たことがなかったから、目の前にいるのがまるで別人に見える。


言葉を失った彩に気付き、英知は音量を抑えて続けた。


「―――ごめん…。
だけど、まだ兄貴帰って来てねぇし。
うちにいたって仕方ねーじゃん」


「え…?」


「―――兄貴に会いに来たんだろ?」


一瞬、英知の言う意味が分からなかった。


そしてすぐ、英知が誤解してるのだと分かった。


「何言ってんの…。
英知のお見舞いに来たんじゃん」


「―――気を遣わなくていい。
もう帰って」


英知は再び扉を閉めかける。