初恋の実らせ方

「冗談だろ?
本当に兄貴と付き合ってんの?」


英知は思わず彩の手を掴んでいた。


嘘だ、嘘だ、嘘だ。
頭の中で英知は叫ぶ。


だけど。
彩は照れながらうん、と頷いた。

「ほら、手ぇ離せ」


啓吾は英知の手を払うと、そのまま自転車を走らせた。


******


駐輪場に着き、自転車から降りようとする彩に手を差し出した啓吾に、彩は微笑む。


「何?」


「啓吾くんは優しいなぁと思って」


同じ兄弟なのに、英知と全然違う。


「まぁね。
俺、フェミニストだから」


啓吾の口角がキュッと上がる。

啓吾はこんな風に笑うんだ。
今まで見てたつもりで、全然見えてなかったことに気付く。


「そうだ。
彩、一つお願い」


啓吾に彩、と呼び捨てされるのにまだ慣れなくて、それだけで彩の胸の鼓動は少し早くなる。


彩は啓吾を見上げて、彼の言葉を待った。


「俺のこと、呼び捨てで呼んで」