「いってー」


英知が頭をさすりながら振り返ると、啓吾が鞄を手にして立っていた。
啓吾はそれをもう一度振りかぶって言う。


「手ぇ離せ」


さもないともう一度殴る、と言わんばかりの啓吾に驚き、英知は慌てて彩の手を離した。


それを見てようやく鞄を下ろした啓吾に、英知は違和感を持つ。


「何だよ。
いつも見て見ぬ振りだったくせして」


「今まではな」


啓吾はそう言うと英知を押し退け、自転車を彩の目の前に停めた。


「おはよう、啓吾くん」


啓吾に向けられる彩の視線が、いつもよりキラキラして見えるのは気のせいだろうか。


電車通学の彩が嬉しそうに啓吾の自転車に乗るのを見て、英知はいよいよおかしいと確信する。


英知は啓吾の制服の裾を掴んだ。