「お母さーん。
食べないで家出るから、お弁当だけちょーだい」


彩は洗面所から、食卓にいる母親に言う。


鏡に映った寝癖がいつもよりひどかったけれど、時間がないので構ってられない。


あれもこれも全部英知のせいだ。


返事がないのを不審に思って食卓を覗くと。
ほのぼのと会話を楽しむ英知と母親の姿があってさらに腹が立つ。


「お弁当ってば!」


「出来てるわよ。
ほら、だらしない格好してないで早くカーディガン着ちゃいなさい」


母親に注意されて、「だって英知が持ってっちゃったんだもん」という言葉を辛うじて飲み込む。


英知を可愛がってる母親にそんなことを言えば、責任転嫁するなって、もっと怒られかねないから。