初恋の実らせ方

彩はさっきの啓吾の言葉を思い出す。


「啓吾くん、さっき…」


確かに彩のことを『好きな子』と言った。


「うん?」


「―――さっき…」


どうして『好きな子』と言ったのか知りたいのに、聞けない。


好きな家族。
好きな仲間。
そんな部類の『好き』だと想像がついたから。


あの場を切り抜けるための言葉に、意味なんてないのが分かっていたから。


「さっき、何だよ」


何も言わない彩に痺れを切らして、啓吾が顔を覗き込む。


啓吾のきれいな顔が近くにあるだけで、彩の心臓はまた騒ぎ出す。


「えーと…。
さっき、どうしてあんなところにいたの?
校舎の裏なんて…」


「ああ。
矢所が良くないから、気分転換に一服しに裏出たら偶然…」


そこまで言ってから啓吾はおっと、と口を押さえ、気まずそうに目を逸らした。