息を切らせて野球場に辿り着くとグラウンドは清掃に入っていて試合は終了したようなのに、観客席にはまだまばらに人が残っている。


その様子が少し不自然だったから、彩は観客席の隅の方にいた二人組の女子中学生に声をかけてみる。
見覚えのあるセーラー服を着ていたので、恐らく英知の中学校の生徒だろう。


「あの、何かあったの?」


女の子たちは驚いたように彩を振り返る。


「見てなかったんですか?
うちの学校の四番の選手にボールが当たったんですよ…」


「すぐに救護室に運ばれたけど、それ以来ベンチにも戻って来なかったから心配で…」


その瞬間、彩は息を飲んだ。
四番…。


いつだったか、英知が自慢げに言ってた言葉が頭を駆け巡る。


『こう見えて野球部じゃエースで四番だからな』


―――英知…!
彩の目の前が、一瞬にして暗くなる。


彩は教えてくれた女の子たちにお礼を言うのも忘れて、救護室に向かって走り出していた。