初恋の実らせ方

「うん」


彩はそう頷いたけれど、啓吾はその表情に限界を感じた。
啓吾を安心させるための返事は、最早啓吾にとって苦痛でしかない。


「俺だけってこと…?」


啓吾は吐き捨てるように聞く。


「…うん」


啓吾は彩の返答に苦笑すると、それならあいつは俺の弟だから、と続けた。


彩はその意味が分からず、横に座った啓吾を見上げた。
表情がよく読めない。


「―――彩の彼氏は俺だから」


そう言った啓吾の顔はもう笑っていなかった。


急に啓吾が彩の頬に手を添え、無理矢理キスをしようと顔を近付けたところで、彩はそれを拒んだ。


啓吾は眉間に皺を寄せて彩を見た。


「嫌…?」


啓吾の声はいつになく冷たい。


「嫌とかじゃないんだけど、急にそんな気になれなくて…」


その言葉は明らかに嘘で、ついた彩もつかれた啓吾もそれを確信していた。


「そんな気ね…。
じゃあ英知とはそういう気になったんだ。
あいつとはキスしたんだろ?」