「兄貴と…、何かあった?」


「ううん…」


彩は大きく首を振る。
啓吾が何かしようにも、彩はそれを拒んでしまった。


「本当に何でもないの」


彩がそう言うなら英知は何も言えない。
そう、とだけ相槌を打って黙った。


啓吾が彩の気持ちを無視して迫ったりしないことは知っていた。


啓吾は英知とは違って、彩に無理矢理欲求を押し付ける必要はないから。
そんなことしなくても、彩は既に啓吾のものなんだから。


「じゃあね…。
お休み、英知」


彩がそう言って家の門をくぐろうとしたとき、英知は無意識のうちに彩の手を掴んでいた。


「え…?」


彩は驚いて英知を振り返る。
掴んだ英知さえ自分の行動に驚いていた。


何をするつもりでもなかった。
ただ彩を帰したくなくて、とっさに手が出てしまった。