その表情から彩の気持ちを確信して、啓吾は自嘲気味に笑った。


「ごめん、忘れて。
何か俺、女々しいな…」


彩は首を振る。
謝るべきなのは彩の方だから。


どうして啓吾を受け入れることができないんだろう。
啓吾のことはこんなに大好きなのに。


「私、帰るね」


彩は啓吾から離れると、机に広げた教科書類を慌ててかき集めて鞄に詰め込んだ。


これ以上悲しそうな啓吾の顔を見るのも、そうさせてしまうのも嫌だった。


「ああ。
一人で帰れるよね」


片付けなきゃいけないし、と啓吾はまだ中身が残った二個のカップを指差して言った。


今までは隣同士とはいえ、彩を家まで送っていたけれど、今日はそんな気分になれそうもない。
彩が英知惹かれ始めていることを確信してしまった今、啓吾は優しいだけではいられそうになかった。


もし彩に触れたら、たった今待つと約束したばかりなのに、求める衝動を抑え切れなくなるのが自分で分かっている。
啓吾は彩を傷付けたくなかった。