「ありがと、啓吾くん」


「どういたしまして」


啓吾はそう言って微笑むと、車体を翻して駐輪場に向かった。


やっぱりカッコイイ、なんて彩がぽやんと彼の後ろ姿に目を奪われていると、背後から声を掛けられた。


「彩ー、見ちゃった。
長谷部先輩と二人乗りで登校なんかしちゃって」


このこの、と彩を肘で付くのはクラスメイトの沙耶と久美子。


二人を見ながら彩は思う。
よくよく思い出せば、啓吾を意識するようになってしまったのはこの二人のせいなのだ。


「今朝遅刻しそうだったとこをたまたま会ったからで…」


せっかくさっきまで夢心地だったのに、口に出すと、本当に偶然でしかないのを実感してしまう。


彩は軽く頭を振ってそんな考えを追い払うと、先頭を切って教室へ向かった。