骨張った大きい手。
英知とは違う、大人の男の人の手だ。


彩がやけに無反応なことに気付き、啓吾は不満そうに彼女の顔を覗き込んだ。


「何、ボーッとしてんの」


急に啓吾の顔が近付き、彩は慌てる。


まさかろくに説明を聞かずに啓吾の手に見とれていた、なんて言えるはずない。
愛想笑いを浮かべる彩を見て、


「赤点取っても知らないぞ」


啓吾はそう言うと、握っていたシャープペンを彩に持たせる。
その言葉で試験が現実味を増したのか、へこむ彩を見て啓吾は笑った。


「嘘だよ、赤点なんか取るかって」


「啓吾は私のできなさ加減を知らないからそんなこと言えるんだ…」


啓吾のように勉強ができればそれは冗談にもなるが、彩には笑えない。
彩がふて腐れて言うと、啓吾はため息を吐く。


「俺が教えるのに赤点なんて取らせるかよ」


その言葉に彩が顔を上げると、啓吾は口角を上げて、不敵な笑みを浮かべてる。


そっかぁ。
啓吾の言葉には半ば魔法のような説得力があって、彩はやけにすんなりと納得してしまう。


実際、啓吾が隣にいると安心するからか、一人のときよりも頭が冴えてる気がした。