その後、彩はどうやって家に帰ったか覚えていない。
記憶にあるのは、その夜に啓吾が家を訪ねて来たことだけ。


彩は啓吾を見て、この人はどんな顔で英知を殴ったのだろう、と思った。


この優しい顔を歪ませてしまったことと、殴られた英知の痛みを思うと辛い。


そんなことを考えているとは思わず、啓吾は彩の顔を見るなり、


「英知に聞いた、悪かったよ」


とだけ言った。


彩は特に啓吾を責めなかった。
その上、気にしないでと笑うことさえできた。


啓吾はそんな彩の態度で安心したようだったし、実際に彩は啓吾に対して怒ることも責める気にもなれなかった。


すっぽかした啓吾に対して不満がなかったからではなく、そんなことはどうでもよく思えたから。


彩は、豹変した英知の言葉や態度が忘れられず、ただそれだけが悲しかった。