彩は黙って再び食べ始めたけれど、さっきまであんなにおいしかったケーキの味がなぜか全くしない。
仏頂面でコーヒーを啜る英知に動悸が治まらないまま、彩は味のしないケーキを紅茶で喉に流し込んだ。


喫茶店を出るなり、食うんじゃなかった、とつぶやく英知に彩はムッとする。
歩く足を早めながら英知を少し睨んで言った。


「そんなこと言うなら人のものつまみ食いしないでよね」


いつものように言い合いしている分には動悸はしない。
それに気付いて彩は少しホッとした。


「―――二度と食うか」


英知が彩に向かってべーっと舌を出したとき、後ろから声を掛けられた。


「―――英知?」


彩と英知が振り返ると、そこには彩の知らない女の子が二人、目を丸くしてこっちを見ていた。