コーヒーしか飲まない英知に同情するように言われると、どれ程おいしいのだろうと思えてくる。


「じゃ一口…」


英知はテーブルに乗り出し、フォークを持っていた彩の手を掴む。
それを自分の方に引き寄せると、フォークの先に刺さったケーキを咥えた。


彩は急に手を掴まれた驚きで動けず、英知を凝視してしまう。


英知は眉をひそめながら二、三度噛んで飲み込み、舌なめずりして彩を見た。


「―――甘…」


不服そうに彩を見つめる英知の目は真っ直ぐで、彩はそのビー玉のような目に吸い込まれそうになる。


掴まれた手がだんだん熱くなっていくような感覚にとらわれる。
すごくドキドキする…。


「離して…」


なんとか英知の手を振り解くと、内心焦っているのを隠しながら平静を装う。


「―――な、慣れないもの食べるから」


「彩がおいしいって言うからだろ」


英知はやっと彩から視線を逸らし、口直しするようにコーヒーを口に含んだ。