距離があるから会話は聞こえないけど、二人の仲が良いのは俺の位置からでもはっきり見てとれる。

タケルが実果を見つめる目を見ると、どれ程彼女を大切にしているのか分かって苦しくなる。

このままタケルと一緒にいた方が、実果は幸せなんじゃないか。
嫉妬と敗北の入り混じった複雑な気持ちが押し寄せる。

タケルが不意にブランコを揺する手を止めると、実果がどうしたの、というようにタケルを見上げた。

その瞬間。
タケルは前屈みになり、実果に口づけた。

初めは驚いていた様子の実果が、そっと目を閉じ、彼を受け入れたのが分かった。

胸が張り裂けたかと思った。

まるで俺の居場所はもう実果の中にはないと言われた気分だった。

事故に遭ってから、記憶を取り戻すまで、要した時間はたったの二ヶ月。
されど二ヶ月。
まだ間に合うだなんて、甘く見ていたことを思い知らされる。

記憶を失っていた時間が、実果と離れていた距離が、こんなに大きいものだとは思わなかった。

手遅れ。
頭の中にその文字が駆け巡る。

記憶を失う前と、記憶を取り戻した後と。
俺は実果に二度恋をして、二度とも失ってしまったんだ。