恋する手のひら

「あの子のどこがいいの?」

理由は言わずに別れを切り出したはずなのに、希美は俺の心変わりに気付いていた。

希美にそんな言葉を言わせてしまったのは不甲斐ない俺のせいだ。

「好きな子を横取りされたら、タケルくんは裏切られたと思って、秀平をこの先ずっと許してくれないに決まってる」

希美から別れ際に言われた一言で、俺は自分のとるべき行動が分からなくなってしまった。

俺が実果を好きだと言えば、きっと今までの三人ではいられない。

希美と別れた後も、タケルとの友情を失うのが怖かった俺は、結局実果に気持ちを伝えることができなかった。

このままでいるのがベストだと自分に言い聞かせ続けた。

だけど今年の実果の誕生日が近付いたある日、

「正直に答えろよ。
お前が大塚さんと別れたのって、実果のためか?」

珍しく真剣な表情で聞いてきたタケルに、俺は嘘をつけなかった。

どんなに非難をされるかと構えたのに、タケルは一言、お前になら譲ってやるよ、とつぶやいた。

タケルはあのときだって、俺の気持ちに気付いていたんだ。
きっと、俺よりも早く。