恋する手のひら

記憶を失っていたとは言え、俺はどれだけ実果を傷付けただろう。

初めてのデートは事故で台無しになってしまったし、彼女のことは今の今まですっかり忘れていた。
挙げ句の果てに、元カノと寄りを戻したなんて。

携帯電話のアドレス帳から実果の名前を探し、焦る気持ちを抑えて通話ボタンを押す。

希美にもタケルにも酷いことをしようとしているのは分かっている。
だけど、実果の気持ちが自分にあればまだ間に合うはずだ。

記憶が戻ったことを今すぐ伝えたいのに、こんなときに限って実果は電話に出ない。

いてもたってもいられず、俺はその足で彼女の家に向かった。


『松浦くんて、私の好きな少女マンガに出てくるヒーローに似てるんだよね』

実果との一番初めの会話がこれだ。
初めはバカにされてるのかと思った。

だけどすぐ、彼女が大真面目にそう言っているのだと分かり、おかしな奴だと思った。

話しやすくて、明るくて。
俺は取っ付きやすい方じゃないから、それまで女友達なんていなかったけど、タケルが間にいたこともあって、実果とはすぐに打ち解けることができた。

実果と接するうち、彼女が俺に好意を抱いていることと、タケルが彼女を思っていることに気付いた。

だけど、俺には以前から付き合ってた希美がいたから実果は何も言ってこなかったし。
俺の方も、タケルとの友情を壊す気もなかったから気付かない振りをし続けた。

だけど一緒にいる時間が増えるにつれ、実果の存在は日に日に大きくなっていって。

希美といても上の空な自分に気付き、俺も実果のことが好きなんだと確信したんだ。