恋する手のひら

俺がネックレスを渡そうとした相手は…。

記憶を辿ろうと目を閉じた瞬間、目の前に一人の顔がはっきりと浮かんだ。

どうして今まで忘れていたんだろう。
どうして忘れて平気でいられたんだろう。

「希美、ごめん」

店内で商品を見ていた彼女に小箱を渡すと、俺は走り出した。

「秀平?!
ちょっと待って!」

後ろで彼女が叫んだのは分かったけれど、俺は振り返らない。

記憶を取り戻した今、一緒にいるべきなのは希美じゃない。
俺が会わなきゃいけないのは、───実果だ。

「くそっ…」

事故に遭った日から、俺はどれだけ空白の時間を過ごしていた?

皮肉なことに、目覚めてから一ヶ月間の記憶は鮮明で。

タケルが実果を抱きしめたことも。
二人が付き合い出したことも。
今なおしっかり目に焼き付いていた。