実果に視線を移すと、タケルの側で俺には見せないような、屈託のない笑顔を浮かべている。

何だ、この気持ち。
何でこんなにイライラしているんだ。
これじゃまるで、俺が実果のことを…。

俺は不意に脳裏に浮かんだ予感を振り払うようにその場から離れた。
更衣室に向かいながら、そんなはずない、と自分に言い聞かせる。

実果の気持ちはタケルにあるし、第一自分には希美がいる。
ただでさえ希美は実果を必要以上に気にしているのに、俺がこんなんじゃ彼女の不安を煽るだけじゃないか。

だけど。
その予感は次第に確信に変わっていく。

どうしてあの日、実果にキスをしたのか。
どうしてさっき、あの手を離せなかったのか。
どうして俺に見せない笑顔をタケルに向けることに、あんなに苛立つのか。

そんなの答えは一つしかない。
俺は実果のことが…。

今さら気付いた気持ちと、自分の鈍さに愕然とする。

「───お疲れ」

そのときタケルが更衣室に入ってきた。