恋する手のひら

電車の中は帰宅途中の学生や会社員で混み合っていたけれど、私とタケルは何とか扉付近の角を陣取ることができた。

電車の揺れで他の乗客とぶつからないように、タケルが腕を突っ張って私の周りにスペースを作ってくれる。
そんなのいつものことのはずなのに、今日はやっぱり意識してしまう。

タケルは背が高いから、向かい合うと目線はタケルの胸の辺りにくる。
少しはだけたYシャツの胸元に目が行って、また焦る。

タケルってばいつの間にこんなに男っぽくなったんだろう、なんて目のやり場に困っていたとき。
急に電車が傾いて、タケルが覆いかぶさってきた。

うわぁっ!
タケルの胸とぴったりくっついて、体温が直に伝わって来る。

「実果ごめん、苦しくない?」

しっかりガードしてくれているから苦しくはないけど、タケルが近すぎて息が止まりそうだよ。
なんて言えるわけもなく、私はやっとのことで頷いた。

まずいな。
意識しすぎてるの、きっとバレてるよね。