恋する手のひら

「何だよ、お前。
職員室に日誌出しに行って、そのまま持って帰ってくるやつがいるか」

タケルは私の手にしていた日誌を指差してケラケラ笑う。

そしてすぐに私の様子がおかしいことに気付いたのか、

「───どうした?
泣いてんの?」

ゆっくり私の顔を覗き込んだ。

「やっぱりダメだ…」

消え入りそうな声しか出ない。

「実果?」

タケルは私を落ち着かせようと、私に手を伸ばす。そして、

「秀平のこと、忘れられるはずなんてなかった…」

私がそう言った瞬間、タケルは触れようとしていた手を止めた。
同時に、彼の顔が強張ったのが分かった。

「希美ちゃんと一緒にいるところなんて、見たくないよ…」

しかも、よりにもよってキスシーンを見てしまうなんて。

「───そんなこと、俺に言うな…」

タケルはなぜか苛立った様子でつぶやいた。

その瞬間思い出す。
以前、秀平と希美ちゃんのことを話したとき、タケルに自分には関係ないと軽くあしらわれたっけ。

「俺に言われても困る」

タケルの声が怒ってる。

そうだよ。
こんな話、タケルにはどうでもいいんだから。