「そんな中途半端なヤツがいいのかよ」

秀平の口調が少し強まる。
やっぱり今日はいつもより不機嫌だ。

別に秀平が中途半端なわけじゃないのに、記憶のない彼にそんなこと説明できない。

「私がそれで納得してるんだからいいの。
もう、この話はおしまい」

私は家の門の前で、送ってくれてありがとう、と手を振る。

秀平はまだ少し腑に落ちないような顔で私を見つめてる。

秀平ってば、私の好きな相手を一体どんな人だと思ってるんだろう。
まさか自分だなんて、これっぽっちも思ってないんだろうな。

心配してくれてるのが分かるから、本当のことを言えないのが心苦しい。

「じゃあな…」

秀平がそう言って歩き出すのを見送る。

以前は笑顔で秀平に手を振ってたのに、今は寂しさだけが募る。

早く私を思い出して。
小さくなる彼の背中を見ていると、無意識のうちに涙が浮かんだ。

少し歩いたところで、急に秀平は足を止めて振り返る。

泣いてるのを見られたくなくて、私は慌てて涙を拭った。