あれ、機嫌悪くない?
秀平はいつも落ち着き払ってて、感情をあらわにすることが少ないから、どこか違和感がある。
放課後に顧問の先生を訪ねたときまではいつも通りだったのに…。

「秀平、部活で何かあったの?」

私はそっとタケルの制服のYシャツを引っ張って、秀平に聞こえないように、小さな声で聞いた。

タケルは少し考えるようにしてから首を横に振る。

「あんなに休んだ後にしては、割と普通にこなしてたけど」

私は横目で秀平を見る。

うーん。
やっぱり、いつもより不機嫌そうに見えるんだけどな…。

何となく腑に落ちないものの、秀平が読んでる雑誌に視線を移すと、いつもタケルに見せてもらってる連載マンガの続きが開かれていた。

そういえば先週号がいいとこで終わって、続きが気になってたんだよね。

私は少しだけ身を乗り出すようにして横から読み始める。

だけど秀平のページをめくるペースが早くて、肝心なセリフを読むのが追いつかない。

それじゃ読めないよ、と私が不満に思っていたとき、不意にタケルが秀平に声をかけた。

「───そういや、秀平さ…」

そして次の瞬間。

タケルを振り返った秀平と、
もう少しゆっくりめくってくれない?
そう言おうと彼を見上げた私の唇が、偶然、ほんの少しだけ重なった。