恋する手のひら

そっか。
私が階段を踏み外す直前、秀平はそれを言いかけたんだ。

だから秀平は仕方ないって言ったんだ。
私と別れても構わないっていうことじゃなくて。
離れていても私とやっていける自信があるからだったんだ。

「俺はH大を受けるよ。
実果となら離れてもやっていける自信があるから」

私は子供だった。

たとえ離れたとしても、それは彼を失うこととは違う。
そんな当たり前のことに、今やっと気付いた。

秀平が側にいないからタケルを選ぶなんて、そんなこと絶対ないと今なら言える。

だって今目の前にいる秀平は、いつか私とやっていく自信がないと言った彼とは違うから。
自信を持って、私とならやっていけると言ってくれるから。

私は秀平を信じればいいんだね。

「寂しくなったら言って。
すぐに会いに行くから」

大丈夫だよ。
秀平の手の温もりが、そう励ましてくれているような気がした。