離れてしまうなら付き合っている意味がないとか。
側にいるタケルと寄りを戻すかもしれないとか。

あんな言葉、本心じゃない。
ただ秀平と一緒にいたかっただけ。

自分の夢をしっかり描いて、それを堅実に追おうとしている秀平に、置いてきぼりにされるのが怖かっただけ。

臆病な私は秀平を責めることしかできなかったの。


「ごめんね…」

そうつぶやいたとき、秀平の指がぴくりと動いた。

私が急いで秀平の手を握り返すと、彼はやがてゆっくりと目を開いた。

「秀平…!」

彼の目が私を捕らえた瞬間、身体に緊張が走る。
確かあのときの秀平は、冷たい目をして…。

「───あんた誰…?」

秀平の言葉に息を飲む。

嘘…でしょ?
そう思った瞬間、彼は急に表情を崩してプッと吹き出した。

「冗談だよ」

私は思わず立ち上がった。

「ひどい!」

もしまた秀平が記憶を失ってしまったら、もう乗り越えていける自信なんてない。

「忘れられたとき、どれだけ私が傷付いたか知らないから、秀平はそんな冗談が言えるんだよ」

手を振りほどこうとしたとき、秀平に強く握り締められた。