恋する手のひら

「黙っててごめん。
だけど、やるなら妥協はしたくないんだ」

H大は名門だから、もちろん建築学科もレベルが高い。
秀平が受けたいと思って当然なのに、どうして今まで考えもしなかったんだろう。

「いいじゃん実果。
受かるって決まったわけじゃないんだし、受けさせてやれよ」

タケルが私たちを取り持つように口を挟む。

だけどそんなの取り繕ったに過ぎない。
タケルだって、成績のいい秀平ならきっと受かると思ってるに違いない。

「嘘つき!
地元の大学に行くって言ってたのに」

自分勝手なことを言っているのは分かっている。

秀平の夢を応援できない自分が彼女失格だってことも理解してる。

だけど頭の中は、秀平と離れたくない気持ちでいっぱいいっぱいだ。


ふと頭にさっきのタケルの言葉が浮かぶ。

『今の関係でいられる間は』

秀平のH大進学のことを知っていたタケルの言葉に、タイムリミットを感じたのは気のせいじゃなかったんだ。