恋する手のひら

「ないよ」

秀平はそう言った後、呼吸を整えてから続けた。

「お前がいたから」

彼の言う意味が分からず、私が首を傾げたのを見て秀平はため息混じりに言った。

「…お前のことが気になってたまらなかったのに、希美に手ぇ出す気なんか起きるわけないだろ」

その言葉はまるで夢みたいで、私の目に思わず涙が浮かんだ。

「何で泣くんだよ…」

「だって。
私のことなんて全然関心ないと思ってたから」

あのときの私は秀平と距離を縮めていく希美ちゃんを羨ましがるだけで何もできなかったのに、秀平が気にかけてくれていたなんて。

「───あのときはお前とタケルがデキてるように見えたんだ。
お前が気になるなんて、そんなダサイこと言えるかよ」