「お前に好かれて困るやつなんかいない。
───今の俺が言っても説得力ないかもしれないけど」

他の誰でもない、秀平にそんな言葉を貰えるなんて思ってもみなかった。
じわじわと、涙で視界がぼやけていく。

「少なくとも俺は、お前のこと気に入ってるから。
だから自分を卑下するなよ」

堪えきれなくなった涙が頬を伝う。
まるで、まだ秀平を好きでいてもいいと言われたようで、今まで抱えてた不安がゆっくりと溶けていく。

「実果…」

名前を呼ばれて、胸が締め付けられる。
彼が目を覚ましてから、私の名前を口にしたのは初めてだったから。

性懲りもなく、また涙が溢れる。

「俺もあいつみたいにそう呼んでた?」

あいつっていうのは、きっとタケルのこと。
私は黙ったまま頷いた。

秀平は、以前とは少し違うけど、それでも優しい目で私を見る。

病室で見せた他人を見るような目じゃない。
今はそれだけで十分だ。

「お前ら二人のことだけは早く思い出したい」

じゃなきゃ一人だけ退け者にされてる気分だ、と秀平はため息混じりに言う。

うん、そうだよ秀平。
お願いだから、一日も早く私を思い出して…。
私は心の中でそう強く願った。