「───本当にお前には、まいる…」

私の耳元で、秀平が声を絞り出すように言う。

庇ってくれたときとは違う、ちゃんとした抱擁に戸惑いながらも、無意識のうちに体を預けてしまっている自分に気付く。

どうしてこんなに強く抱きしめるの?
秀平の真意が分からない。

私が無事だったことに対する安堵、それ以上でも以下でもないのかもしれないけれど、もう少しだけこのままでいたい。
さっきまでこの薄暗い倉庫から早く出たいと思ってたくせに、私はなんて現金なんだろう。

だけどこんな時間がずっと続くはずはないのは分かってる。
秀平はゆっくりと私の体に回した腕を緩めると、私の目を見て口を開いた。

彼が何を言うのかは簡単に想像がついた。
『ごめん、忘れて』
どうせそう言って、全部なかったことにするんだ。
距離が近付いたような気がしても、それはいつも私の独りよがりに過ぎないんだから。

「───ごめん」

ほらね、秀平はいつもそう。
優しいのに残酷だ。

だから私はいつまでも経っても秀平を忘れられないんだ、と絶望した次の瞬間。

「もう自分に嘘はつけそうにない…」

秀平はもう一度私を強く抱きしめた。