いつも冗談ばっかりで若干生徒に舐められ気味の林原先生にまで呆れられてしまうと、さすがに危機感を覚える。
隣に座ってる佐々本先生がクスクス笑ってるのがなお恥ずかしい。

自分の意思のない、流されただけのいい加減なチョイス。
高校三年生の二学期にこれじゃあ、先生も困るよね。

「同じクラスの松浦を見習えよ。
お前、仲いいんだから」

林原先生がぽつりと秀平の名前を出した。

「あいつ、K大の推薦枠を辞退してまで進路決めたんだろ?」

───え?
今、何て言った?

「おい、林原っ」

その瞬間、隣で聞いていた佐々本先生が慌てて林原先生の口を手で塞いだ。

「それは口外するなって、あれ程…!」

佐々本先生は林原先生を窘めたかと思うと、私に向き直って、

「早川、悪い。
今の聞かなかったことにして」

そう言って顔の前で手を合わせた。

嘘でしょ?
秀平が推薦を断るはずなんてない。
だって、秀平がタケルと同じくらいバスケが好きで。
大学に行っても続けるつもりだったのは、私が一番よく知ってるんだから。

私は職員室を飛び出す。
後ろで林原先生が、「おい、話は終わってないぞー」と叫ぶのなんて気にしてられなかった。