「送ってくれてありがとね」

俺は実果に手を振って踵を返した。

「───秀平」

俺を呼び止める実果の声に、胸が掴まれる気がした。

彼女は何を言うつもりだろう。
もし今度また好きだと言われたら、俺は二度と拒めない確信さえあった。

俺は自分勝手だ。
早く俺を振っ切ってくれることを願ったはずなのに、一生俺を引きずっていて欲しい、とも思っているなんて。

そんな相反する思いに囚われながら振り返ると、想像とは全く違う、笑顔の実果がいた。

「ありがとう、変わらず友達でいてくれて」

その晴れ渡るような笑顔に胸が苦しくなる。

「結局、彼女にはなれなかったけど、大好きだった人と友達になれて私は十分幸せだった」

今さらになって、未練と後悔が波のように押し寄せてくる。

あんなひどい振り方をした俺に笑顔を向ける実果に、俺はあの日の選択が間違っていたことに今はっきりと気付いた。

だけどもう、何もかも遅かった。