「それ、去年海行ったときのだろ。
実果、食い過ぎで腹壊したんだよな」

タケルは秀平の手からアルバムを取り上げると笑った。

「何それ!」

私は慌ててアルバムを取り返す。

「お腹壊したのはタケルじゃん!」

もうっ。
秀平に変な記憶を植え付けないでよ。
私が膨れながら言うと、そうだっけ、とタケルは舌を出す。

そしてちらっと秀平を見た。

「少しは何か思い出さねぇの?」

「いや、さっぱり」

やっぱりかー。
私は内心でがっくりと肩を落とす。

だけど、記憶が戻らなくて一番辛いのは秀平のはず。
そんな彼が私たちに弱みを見せてくれないのが余計に寂しい。

教室に入った途端、秀平に視線が集まった。

それもそのはず。
きっとみんな、秀平は戻ってこないと思ってたから。

「秀平!」

「目ぇ覚ましたって、本当だったんだ!」

秀平はわらわらと群がって来るクラスメイトに、迷惑そうな顔一つ見せずに対応する。

かと思うと、みんなから解放されて席に着いた途端、私たちだけに聞こえる音量でぽつりとつぶやいた。

「まるでゾンビ扱い…。
勝手に人を殺すなよ」

記憶がなくても、八方美人なのは相変わらず。
そんな秀平に、私とタケルは顔を見合わせて吹き出してしまった。