恋する手のひら

「ああ、髪?
切っちゃったんだ」

彼女は肩にやっとかかるくらいの髪の先を摘みながら、周囲を気遣ってか、少し小さな声で言った。

髪を切ったのはやっぱり俺のせいだろうか。
なんとなく返答に困っていると、

「家族にも友達にも結構好評なんだよ」

実果のその言葉に救われた。

「うん、似合ってる」

そう言うと、実果は少し照れながら笑った。

「…受験勉強?」

開いていた参考書とノートに目をやりながら聞くと、彼女は頷いた。

「家だとあんまり集中できないから、たまには場所を変えて気分転換してみようと思って」

「そっか。
タケルは?」

俺が聞くと実果は少し口を尖らせた。

「タケルは後輩に混じって毎日部活ばっかりだよ。
進路決まってるからって、余裕過ぎて少しムカつくくらい」

あの後二人が上手くいったのか気になっていたから、実果が自然にタケルの様子を語る姿にホッとする。
俺が全てを諦めた分、せめて二人には幸せになってもらわなければやりきれなかった。

俺が笑うと、急に真剣な顔になって実果が言った。

「…あの。
残念だったね、K大」

ああ、そうか。
まさか自分から推薦を辞退したとは思わないよな。

目の前で気を遣う実果に、少しだけ罪悪感を覚える。

もし実果と付き合う自信がないから断ったと知ったら、彼女はどんな顔をするだろう。
もちろんそんなこと話すつもりはないけど。

「───俺はタケルと違ってバスケバカじゃないからどうにでもなるよ」

冗談めかして言うと、実果が笑ってくれたのでホッとした。