恋する手のひら

残念ながら準々決勝で俺たちの夏は終わったが、タケルは無事K大に進学することが決まった。

試合の後、覚悟を決めた顔で公園にやって来た実果を見て、鈍い俺でも彼女が何を言うつもりなのか予想ができた。

「ずっと秀平が好きだった。
初めて会ったときから、今もずっと」

実果がこんな弱い俺をまだ思ってくれてるのは嬉しいけど、タケルとの勝負を放棄した俺にはそれに応える資格はない。

なのに、実果の顔を間近で見るだけで、諦めようとした決心は簡単に鈍ってしまいそうになる。
彼女の声を聞くだけで、もう自分の選択を後悔しそうになる。

「お前のこと、好きだったよ」

お詫びにもならないけれど、俺は初めて実果に自分の気持ちを伝えた。

実果がずっと待っていた言葉を、こんな最悪のタイミングでしか言えない俺は、本当に駄目な男だよな。

好きだった、なんて過去形にしたのはせめてもの強がりだ。
今も好きだなんて、未練がましくて言えやしない。


実果はこれで前へ進める。

ちゃんと勝負に挑んで結果を手にしたタケルも、ようやく俺への罪悪感や劣等感から解放されて、そんな実果を受け止められる。

タケルが実果に推薦が決まったことを伝えれば、きっと全部上手くいく。

───俺の本心以外は。