恋する手のひら

これでいいんだ。
俺は自分に言い聞かせる。

K大に行けるチャンスを自分から放棄することに迷いがないと言えば正直嘘になる。
進学してもバスケを続けるのを目標としていたし、K大は実力を試すにはうってつけの場所だったから。

だけど俺はタケルとの勝負に臨むのが怖かった。

俺とタケルの実力は拮抗しているから、推薦を取る確率はほぼ半分。
タケルは一度こうと決めたら頑固だから、もし俺が推薦を取れば、潔く諦めて、俺に実果を返すのだろう。

だけど俺には、それが実果にとって最善だと思えるほど楽観的にはなれかった。

タケルと一緒にいるときの実果はいつも溢れんばかりの笑顔なのに、俺の側にいるときはどこか緊張していて、最近は泣き顔しか見せない。

俺の実果への思いがタケルのそれに及ばないとは決して思わない。
彼女のことは大切に思っているし、幸せにしてやりたいとも思っている。
だけど俺には、タケル以上に実果を幸せにしてやれる自信がどうしても持てなかった。

そんな臆病な俺が、実果のこれからを手に入れていいはずがない。

かといって、試合でわざと負けようと手を抜けばすぐにタケルにバレるだろうし、俺自身、そんなつもりは毛頭なかった。

だって、最後の夏に、インターハイという最高の舞台で、信頼できる仲間と戦うことができる。
それがどんなに幸せなことか、今の俺は痛いほどよく分かっていたから。

推薦を辞退すれば、実果は二度と手に入らないことは分かっていた。
だけど、勝負を避けることが出来ない俺は、それを選ぶしかなかったんだ。