「バカなこと言うな。
実果を景品みたいに扱えるかよ。
バスケの勝ち負けで決めるなんて、あいつだって絶対納得しない…」

俺が否定しかけたとき、

「実果だって、今のままじゃ俺もお前も選べない。
他にどうすりゃいいんだよ」

タケルが声を荒らげた。

逃げることしかできなかった俺と、俺の気持ちを信じられなかった実果。
そんな俺たちに振り回されるタケルは被害者以外の何者でもない。

「バスケの試合がかかってれば、お前だってこの間みたいに簡単に身を引いたりしないだろ。
俺だって、本気になったお前から実果を勝ち取らなきゃ、もう前に進めないんだよ」

───罪悪感と劣等感を抱えたまま付き合うのは限界だ。
さっきのタケルの言葉がよみがえる。

行き違いがあったとはいえ、実果を譲る形になってしまったことが、タケルのプライドをそんなに傷付けていたとは知らなかった。

普段お調子者のように振る舞っているタケルの本音を初めて聞いたような気がした。

「もちろん賭けてるなんて実果には言わないし、どんな結果になっても恨みっこなしだ。
だから頼む、俺と本気で勝負してくれよ」

そう言って頭を下げるタケルに、俺は言葉を失う。

タケルと実果を賭けて競い合うなんて、そんなバカな話があるかよ。
だけど目の前のタケルは必死で、何を言っても無駄なのは明らかだ。

ゆっくりと眠っている実果に目をやる。
いくら悩んでも、俺には頷く以外の選択肢は見つからなかった。