恋する手のひら

「こいつ、あの後泣きながら俺に言ったよ。
秀平のことを忘れたいって」

実果の泣き顔が脳裏に浮かぶ。
俺はまた実果を傷付けた。
一体、何度泣かせればいいのだろう。

「俺だって忘れさせたかったし、このまま俺の手で幸せにしてやりたかった。
だけど…」

突然タケルは激しさを失ったかと思うと、肩を落とした。

「いつまでたっても、お前はこいつの中から出て行ってくれない」

身震いがした。
実果がずっと俺を思ってくれた、その事実に胸が掴まれるように苦しくなる。

「お前のことで泣いてばっかのこいつを見るのは、もう嫌だ。
お前から実果を横取りした罪悪感と、いつまでもお前と比べられて劣等感を抱えたまま付き合い続けるのは、もう限界なんだ」

タケルが絞り出すように声をもらした。

「───別れるつもりなのか?」

誤解が重なったとは言え、実果は俺を忘れたがっているんだろ?
お前はそれでいいのか、なんて俺に言わせるなよ。

「俺は実果が幸せなら、どうなってもいいんだ」

実果に視線を落とすタケルの目は悲しいくらいに優しい。