そのとき、実果がぽつりとつぶやいた。

「秀平…」

驚いて彼女の顔を見たけど、やっぱりまだ眠っている。

何だ、寝言か…。
そう思った瞬間、俺は赤面する。

寝言で名前をつぶやいたってことは、実果は俺の夢を見てるってことにならないか?

「秀平…」

実果はもう一度俺の名前をつぶやき、一筋の涙を流した。

ちょっと待て。
何で実果は俺の名前を呼んで泣くんだ?

実果はタケルの彼女だ。
俺が記憶を取り戻してもタケルを選んだのに、何で今さらこんな寝言をつぶやくんだよ。

これじゃ俺じゃなくても誤解する。
タケルだって嫌な気持ちになる。

「こいつ、寝ぼけてんな」

俺は取り繕うようにタケルに言った。

「気を失う直前に俺の顔を見たからだ。
深い意味なんてない」

タケルにそう言うことで、俺はむしろ自分に言い聞かせてるのかもしれない。
俺の名前を呼んだのはたまたまだって。

「───そんなことないだろ。
だって実果はまだお前のことが好きなんだから」

タケルの言葉に俺は耳を疑った。