恋する手のひら

本当にそうかな。

彼が記憶を失ってたった一ヶ月も待てなかった私から、秀平の気持ちが離れていっても不思議じゃない。

秀平は私とタケルを残して帰った。
それはつまり、私をタケルに託すということ。
もう、私のことはいらないという意思表示にしか思えない。

「タケルの優しさに逃げた私を、今さら秀平が受け入れてくれるわけない…」

首を振りながら弱気になる私を見てタケルは大きなため息をくと、強引に私の手を引いて抱き寄せた。

体育館に鳴り響く蝉の声に、何も考えられなくなる。

秀平のこと、忘れたいのに…。
私はタケルの胸の中で、声を詰まらせながらつぶやいた。