恋する手のひら

「口止めされたとは言え、黙っててごめん。
実果にだけは言わなきゃいけないって分かってたのに…」

タケルが大きく息を吐く。

「言い訳にもならないけど、やっと俺の方を向いてくれた実果が、秀平のとこに戻るのが怖かったんだ」

呆れるくらいヘタレだよな、とタケルが自嘲気味につぶやくのを見て胸が痛んだ。

ううん、違う。
あのときタケルは確かに何かを言おうとしてた。

タケルがいけないんじゃない。
タケルと付き合ってるにも関わらず一向に秀平を忘れられない私が、それを言うのをためらわせてしまった。

「俺は秀平が記憶をなくしている間に実果を横取りした。
その上、このまま黙ってれば実果をずっと自分のものにできるかもしれないなんて、ずるいこと考えてた」

タケルは座り込んだまま、頭を抱えて言う。

タケルにそんな風に思わせてしまったことがショックだった。

タケルのせいじゃない。
タケルを選んだのは私だ。

「秀平のとこ行けよ。
きっとまだ間に合うから」

タケルは私に秀平の後を追うように顎で促す。

「あいつが彼女と別れたのは、お前を思い出したからだ。
あいつだって、まだお前が好きなんだよ」