恋する手のひら

私は振り返れない。

だってタケルは気付いてる。
一瞬とは言え、タケルの存在を完全に忘れていた私に。

痛めた足を少し庇うようにしながら去っていく秀平。
その後を追いたくてたまらないのに、私の足はまるで根が生えたみたいにぴくりとも動かない。

タケルを残して秀平の元になんて行けるわけない。
だって私は今、タケルの彼女なんだから。

「───お前が学食で、カレーひっくり返しそうになったことあっただろ」

タケルがゆっくりと噛み締めるように話し出す。

覚えてる、つい最近のことだ。
あのとき、秀平が希美ちゃんと別れたって聞いてすごく驚いたっけ。

「あのときだよ、俺が気付いたのは」

恐る恐るタケルに向き直ると、彼は少しだけ寂しそうな顔で私を見ていた。