恋する手のひら

「無理に毎日来てもらわなくていいのよ」

秀平のお母さんから申し訳なさそうに言われる度、私たちは笑って首を横に振る。

ここに来る理由は、同情や義務感じゃない。
ただ、秀平と一緒の時間を過ごしたい。
私たちのそんな勝手な自己満足だから。


秀平の並外れた体力のお陰で怪我は順調に回復し、一ヶ月も経たないうちに一般病棟に移された。

すでに自発呼吸も戻って、包帯も外れていたから、本当に眠っているだけのように見える。

「───今にも目ぇ覚ましそうなのに。
秀平って意外と寝起き悪いよな」

タケルが秀平の頭を小突きながら、冗談半分でそう言った。

「汚い手で触っちゃダメだってば」

私の言葉に、タケルはふて腐れたように舌を出す。

「はいはい。
どうせ俺の手は汚いですよーだ」

そんな子供じみた仕草に私が苦笑していると、

「───なぁ、実果」

突然タケルが真剣な顔になった。