「…試合、始まってる」

私のいる場所はここじゃない、とでも言うように秀平がつぶやく。

「…」

そんなの分かっているのに、秀平の隣を離れられない自分が信じられない。

秀平の存在はどうしてこんなに大きいんだろう。
全てのことが簡単に二の次になってしまうくらいに。

「きっとタケルのやつ、実果にいいとこ見せようと張り切ってる」

秀平が急にそんなことを言い出すから、罪悪感が沸き上がって胸が苦しくなる。

秀平は、この場に留まりたい私に気付いてわざとタケルを話題に出したのかもしれない。

私はやっぱりここにいちゃダメなんだ。

飲み物を買ってきて、秀平に渡したら応援席に戻ろう。
そう思って立ち上がろうとしたとき、秀平に腕を掴まれた。