コツンとやや乱暴にベランダの手摺りにビールの缶を置く。

それは夜の帳に包まれた空気に触れて、するどく揺れた。

少々酔ってきたのかもしれない。

小さく舌打ちをし、背中ごとズルズルと座り込んだ。


『あいたい』


不意に耳朶を叩く、小さな声。

久しぶりに電話越しに聞いたその声は、あまりにも儚くて切なげで。

そして愛おしかった。

くらくらとする頭で、ぼんやりと空を眺める。

視界の隅でちらつく笑顔と光る星が重なって、ひくりと喉が鳴った。


「…あいたい、ねぇ」


繰り返し何度もつぶやく。

果してそれは、叶えてやれるのだろうか。


―――この俺に?


この問いにピタリと当て嵌まる答えは、まだ見つからない。

手を伸ばせば伸ばすほど、遠くへ離れ、身を退こうとすれば、行くなと俺の腕を引っ張る。